2023年3月17日、岸田首相から次の発言が出ました。
「産後の一定期間に男女で育休を取得した場合の給付率を手取り10割に引き上げる」
育休で貰える育児休業給付金(育休手当とも呼ばれていたり)。
毎月月収の67%(181日目から50%)の手当が給付されるこの制度、もしそれが月収の10割(100%)になったら凄い改善ですよね。
でも…本当にそんなにおいしい話なのか?
政府に対して素直になれない私はもっと詳しく調べてみて、その結果がっかりしてしまいました。
確かに改善ではありますが、それほどではありません。
なので凄く期待して取得したのに、後になって「話が違う!がっかり!」なんて事にならない様、期待し過ぎてはいけない理由を5つ書いてみました。
★こんな人達のお役に立ちます★
- 夫婦で育休取得を考えている方(特に男性)
- 育休手当10割と聞いて凄い期待をしている方
- 育休手当10割で実際にいくら貰える様になるか知りたい方
※この記事は2023年3月17日の記事の情報を元に書いています。
※育児休業および育児休業給付金の制度についてざっくり説明していますが、詳細な条件・計算式の話は割愛しています。気になる方は厚生労働省の資料に目を通してみて下さい(いつか記事にするかも)。
育休手当10割って何?何が凄いの?
育休手当10割って何?
育休手当10割とは何か?一部で騒がれる様になったきっかけは今年3月17日の記事もある様に、岸田首相が「夫婦で一定期間育休取ったら給付率を実質10割にUPしちゃうよーん」と発言したことです。
日経新聞「男女で育休「手取り10割」給付 少子化対策で首相表明」
彼の言っている給付とは、いわゆる育休(育児休業)を取った人が貰える育児休業給付金(育休手当)の給付の話。
育児休業(略して育休…育児のために仕事を休むこと)の期間は(会社で働いていないので)会社からの給料が出なくなっちゃいますが、そんな人達の生活を支えるために代わりに育児休業給付金が支給されることになります。
その給付金は具体的にいくら貰えるか?
詳細は割愛しますが現行制度だと月収の50~67%(ざっくり)貰えるのですが、岸田首相の話だとこれを実質10割(100%)にする!とのことです。
かくして「育休手当10割」というキーワードと共に話題となったわけです。
育休手当10割の何が凄いの?
で、これって何が凄いのでしょう?
実際に金額で確認した方が分かりやすいと思うので、例えばある夫婦(二人とも月収30万円)が二人とも育休を取った場合でイメージしてみましょう。
現行制度だと67%(181日目以降は50%)、育休手当10割だと100%…ここから住民税(前年の年収に応じたもの)が引かれます。
つまり、月収30万円の場合に貰える給付金はそれぞれ表1の様にになります(住民税はざっくり2万円で計算)
表1:月収30万円の場合の給付金
計算式 | 給付率 | 給付金[円/月] | |
現行制度 | 月収30万円 x 給付率 – 住民税2万円 | 50~67% *1 | 13万~20万 |
育休手当10割 | 月収30万円 x 給付率 – 住民税2万円 | 100% | 30万 |
*1 取得してから1~180日目までが67%、181日目~が50%
1人あたり毎月10万円以上多目に貰える制度だから凄いお得ですね!
しかも夫婦で取得したら毎月20万円以上!こりゃ「おおっ!凄い!」となってしまいそうです。
実際その日のSNSの反応を見てみると賞賛の声が多く上がっていました。
(「取れない人からの不満」「少子化の根本対策にはならない」という不満の声も多かったですが、ここは記事で伝えたい事とは無関係なのでスルーしています。)
オチは後で書きますが、言葉のインパクトは凄いなあ!と感じさせてくれました。
育休手当10割に期待し過ぎてはいけない5つの理由
凄い!岸田やるやん!
って思い始めた方には大変申し訳ありませんが、タイトルにもある様にこの育休手当10割に過度な期待はご法度です。
まだ検討中の段階ですが、少なくとも3月17日時点の情報だけだと期待できるものではありません。
理由は大きく5つあります。
- 給付率67%→100%ではなく、正しくは67%→80%
- 一定期間が不明(今のところ1か月)
- 月収38万円を超えるとお得感が少なくなる(46万円以上は現行制度と変わらない)
- ボーナスまでは考慮されていない
- 夫婦での取得が条件となる
理由1:給付率は67%→100%ではなく、正しくは67%→80%
冒頭にも書いていますが、
岸田首相は「夫婦で一定期間育休取ったら給付率を実質10割にUPしちゃうよーん」と発言しています。
そう。10割ではなく実質10割で、実際には給付率が67→80%に上がるという内容なのです。
「どういうことだってばよ!?」って思いますよね。
岸田首相はあくまで「手取りの10割」になる様にする!と言っているだけです。
手取りというのは月収から所得税・社会保険料・住民税を引いた金額になります(会社によって若干違いますが)。
例えば月収30万円の場合、給料で貰う場合・育児休業給付金(現行制度)で貰う場合・育児休業給付金(育休手当10割)で貰う場合で表2の様に手取りは変わります。
表2:月収30万円の場合の手取り(給料の場合、育児休業給付金の場合)
給料の場合 | 育児休業給付金の場合
(現行制度) |
育児休業給付金の場合
(育休手当10割) |
|
①月収 | 30.0万 | 20.0万 ※給付率67% | 24.0万 ※給付率67% |
②所得税 | 0.8万 ※ざっくり | なし(給付は非課税のため) | なし(給付は非課税のため) |
③社会保険料 | 4.2万 ※ざっくり | なし(免除のため) | なし(免除のため) |
④住民税 | 2.0万 ※ざっくり | 2.0万 ※ざっくり | 2.0万 ※ざっくり |
⑤手取り
(①-(②+③+④)) |
23.0万 ★1 | 18.0万 | 22.0万 |
⑥実質〇割
(⑤ ÷ ★1) |
- | 78%
(大体8割) |
96%
(大体10割) |
この様に、給付率を現行の67%から80%に引き上げる事で給料の手取りの大体10割を貰える様になるというのが今回のお話です。
先ほど月収30万年の場合は「2人あたり毎月20万円以上多く貰える!うきゃー!」と騒いで書きましたが、実際には二人で8万円アップに過ぎません。
まあこれだけでも十分ありがたいかもですが、次の理由で多分更にがっかりされるかと思われます。
理由2:一定期間が不明(今のところ1か月)
理由1で分かった事は夫婦とも月収30万円の場合、毎月8万円アップ!
問題はこれが何か月続くかです。
育休を取得できる期間は1年(最大2年)なので期間中ずっとアップしてくれるなら素晴らしいが、もう一度岸田首相の発言を思い出してみよう。
「夫婦で一定期間育休取ったら給付率を実質10割にUPしちゃうよーん」
…
はい、「一定期間」と言っていますね。少なくとも期間中ずっとではなさそうです。
いくら毎月8万円アップ!が凄くても、それが1ヵ月限定とかだったら非常に残念なお話。
この一定期間がどのぐらいの期間なのか?が非常に気になりますよね。
しかし残念ながら、日経新聞「育休夫婦の収入、実質全額を保障 1カ月軸に政府検討」の記事により、今のところ特定期間=1カ月で検討されている事が分かってしまいました。
つまりこの制度、育休手当10割と聞けば凄いインパクトのある改善策の様に感じるが、蓋を開ければ「夫婦で取得すれば1回だけ数万円多目に給付します!」と言っているようなもの。
1回だけでもありがたいと言えばありがたいですが、期待と実態のギャップのせいで後々猛反発をくらいそうだなと感じました。
理由3:月収38万円を超えるとお得感が少なくなる(46万円以上は現行制度と変わらない)
これは現行制度がそうなっているのですが、給付額には上限があります。
1カ月あたりの支給上限額は30.5万円(正確には305,319円)となっているため、月収46万円以上の人は一律でその金額が給付されます。
支給上限額もしが変わらないまま給付率が80%に上がった場合、月収38万円以上の人は一律でその金額が給付される様になります。
給付率80%にアップと騒がれていますが、月収38万円を超えると下の表の通り実質の給付率はどんどん下がっていきます。
①月収 | ②現行制度(給付率67%)
※上限額:30.5万 |
③育休手当10割(給付率80%)
※上限額:30.5万 |
育休手当10割で実質の給付率は何%になるか?
※③÷① |
月収38万円 | 25.4万 | 30.5万 | 80% |
月収40万円 | 26.8万 | 30.5万 | 76% |
月収42万円 | 28.1万 | 30.5万 | 73% |
月収44万円 | 29.4万 | 30.5万 | 69% |
月収46万円 | 30.5万 | 30.5万 | 67%(現行制度と変わらない) |
そこまで月収貰えている人自体そんなにいない想定なのかもですが、月収38万円を軸にお得感が少なくなることは知っておいた方が良いでしょう
理由4:ボーナスまでは考慮されていない
これは現行制度でもそうなのですが、育児休業給付金は毎月の月収を元に計算されています。
そしてその月収の中にボーナスの金額は含まれていません。
ボーナスのない or 少ない会社に勤務していれば家計に影響はあまりないですが、ボーナスが多目の会社の場合は家計に影響を与えることでしょう。
もともとは年収が下がるから取得したくない、とならない様に考えられているとは思いますが、ボーナスもある程度考慮したらもっと取得率は上がるんじゃないのかな?とは思いました。
いずれにせよボーナスまでは考慮されないことも踏まえて、子育て中の家計に支障が出ないか確認することをお勧めします。
理由5:夫婦での取得が条件となる
夫婦二人で取得が条件となりますので、妻だけ取っても父だけ取っても現行制度のままです。
一応父親の育休取得率を上げるための策ではあるものの、理由1~4に書いてある様に大きな恩恵はなさそうなので、果たして「よっしゃ夫婦で取るぞー!」となる人がどれほど出るのか…ってのは気になります。
また現段階ではシングルファザーやシングルマザーにどこまで配慮しているのかも分かりません。
まとめ:言葉のインパクトだけは凄そうだが中身をよく確認してから取るべし
育休手当10割!という言葉だけ聞くと何か凄そうに感じるこの制度。
しかし現段階では実態は単に「夫婦で取得すれば1カ月だけ数万円高く給付します」というだけの話。
これだけ聞くと「非課税世帯にのみ3万円給付します」と同レベルの、一部の人がちょっとだけ得する制度にしか聞こえませんでした。
まだまだ検討中の段階なのでこれから変わるかもですが、少なくとも3/17時点の情報では大して期待できそうにない制度で、これで本当に男性の育休取得率が上がるのか?…と小生は感じました。
もちろん人によっては「それでも十分ありがたい!」「喜んで取ります!」と感じると思いますし、その気持ちを否定するつもりは一切ありません。
ただこの言葉のインパクトだけで過度な期待をし、取得した後にがっかりするなんて事だけは避けて欲しいと思っています。
この記事で育休手当10割について少しでも理解が深まり、少しでもがっかりする人を減らす事が出来れば幸いです。
P.S.最後に
もしこの後の検討でものすごくお得な制度に変わったら岸田首相に深くお詫び申し上げます。